ヴィンテージキングセイコー 裏蓋に秘められた「王」の誇り:メダリオン物語
ヴィンテージウォッチの世界において、セイコーの「キングセイコー(King Seiko、通称KS)」は、単なる時計以上の、日本の時計製造技術の黄金時代を象徴する存在です。その魅力は、精緻なムーブメントや端正なケースデザインに留まらず、着用者の目には触れない**裏蓋(ケースバック)**にこそ、深い物語と「王」としての誇りが秘められています。
盾の紋章:キングセイコーのアイデンティティ

ヴィンテージキングセイコーの裏蓋の最大の「ひみつ」であり、コレクターを惹きつけてやまない要素が、初期のモデルに採用された**メダリオン(メダル)**です。グランドセイコーが「獅子」をエンブレムとしたのに対し、キングセイコー、特に初期のファーストモデルや、人気が高い44KS、45KSなどのモデルでは、「KING SEIKO」の文字を冠した「盾」の紋章が裏蓋中央に誇らしげに埋め込まれていました。
ゴールドメダリオンの輝きと意味

このメダリオンは、多くの場合、ゴールドカラーで仕上げられており、時計全体のステンレススチール(SS)のケースの中で、ひときわ異彩を放っています。これは、当時の最高級機の証であり、時計が内包する高精度な技術と、第二精工舎(亀戸)が誇るクラフトマンシップの「象徴」でした。
裏蓋は、腕に着けてしまえば見えなくなる部分ですが、あえて手間とコストをかけてメダリオンを装着する行為は、見えない部分にも美意識と品質を追求する、日本の高級時計製造の精神を体現しています。それは、時計師から所有者への、静かで力強いメッセージなのです。
コストダウンと変遷:裏蓋デザインの移り変わり

しかし、キングセイコーの歴史の中で、この象徴的なメダリオンは姿を変えていきます。
初期モデル
豪華なゴールドメダリオン(盾の紋章)
後期モデル(56KSなど)
コストダウンのためか、メダリオンが省略され、「KS」の文字やセイコーの「稲妻ロゴ(第二精工舎のマーク)」が刻印される仕様に移行していきます。
最終期モデル
さらに「KS」の刻印すら廃止され、よりシンプルな裏蓋になっていくモデルも見られます。
この裏蓋デザインの変遷は、キングセイコーが生産された1960年代から70年代初頭にかけての、日本の時計産業における生産体制の変化や合理化の流れを物語っています。コレクターは、この裏蓋の仕様から、その時計がおよそどの時期に製造されたか、という手がかりを得ることもできます。
メダリオンの宿命:「欠落」のドラマ

また、ヴィンテージキングセイコーのメダリオンは、しばしば**「欠落」**というドラマを伴います。メダリオンは裏蓋に圧入・接着されているため、長年の使用や経年劣化、あるいは過去の修理時の不適切な取り扱いによって、剥がれたり失われたりすることがあります。そのため、製造当時のままの輝きを保った完璧なゴールドメダリオンを持つ個体は、非常に価値が高いとされ、ヴィンテージキングセイコーを探す上での重要な評価ポイントの一つとなっています。メダリオンの有無や状態は、その時計がどれだけ大切に扱われてきたかを示す、サイレントな証人なのです。
ナンバーに秘められた製造の歴史

メダリオンや刻印の他にも、ヴィンテージキングセイコーの裏蓋には、時計の歴史を読み解くための重要な暗号が刻まれています。それが、型番(キャリバー番号+ケース番号)とシリアルナンバーです。
型番
前の4桁(例:4502)は、時計の心臓部であるキャリバー(ムーブメント)の番号を示しています。これを見れば、そのキングセイコーが「ハイビート」の45系なのか、自動巻きの56系なのか、といった技術的な特徴が分かります。
後の4桁(例:7000)は、ケースのデザイン番号を示しており、この組み合わせで正確なモデルを特定することができます。
シリアルナンバー(6桁または7桁):
通常、最初の1桁または2桁が製造年、続く1桁が製造月を示すとされており、その時計がいつこの世に生を受けたのかを知る手がかりとなります。
これらの数字の羅列は、一見無機質ですが、ヴィンテージウォッチ愛好家にとっては、個体ごとの歴史をたどるための貴重な情報源であり、「この時計は1970年の5月に製造されたものだ」といった、ロマンを感じる瞬間を与えてくれます。
見えない部分へのこだわり

ヴィンテージキングセイコーの裏蓋のひみつは、結局のところ、**「見えない部分への究極のこだわり」**に尽きます。メダリオンを埋め込むという、実用上の機能は皆無ながら美意識に満ちた装飾。そして、製造情報という、所有者にとって実用的ながらも目立たない情報を刻むこと。これらの要素は、「キングセイコー」という名に恥じない、当時の日本の最高水準の時計製造技術と、作り手の誇りを今に伝えるタイムカプセルなのです。腕に装着され、肌に触れることで、静かにその存在を主張する裏蓋の感触。ヴィンテージキングセイコーを持つ喜びは、この**「王の裏側」に秘められた物語**を知ることで、さらに深まることでしょう。
LUCIR-K

静岡の中心地にあるLUCIR-K(ルシルケイ)はブランド時計やヴィンテージ時計を扱うお店です。ロレックスやオメガ、カルティエ、グランドセイコーなど数多くのブランドとモデルを取り揃えています。
▽ルシルケイ公式ホームページはこちら





