【静岡】高度経済成長の記憶:キングセイコー ファーストという名作
1960年代の日本は、「もはや戦後ではない」という言葉が象徴するように、驚異的なスピードで経済が成長し、人々の生活と価値観が劇的に変化した時代でした。豊かさを求める機運が高まり、国産の高級品に対する需要が一気に高まった、まさに**「高度経済成長期」。この歴史的な熱狂の中、1961年に誕生したのがキングセイコーのファーストモデル(初代)**です。単なる時計ではなく、当時の日本の技術と美意識の結晶として、また「手の届く高級品」という新しい価値観を体現したこの名作は、現代に続く日本の時計史において、極めて重要な意味を持っています。
2つの高級機、競争と発展の物語

キングセイコーの誕生を語る上で欠かせないのが、その前年に生まれた**グランドセイコー(GS)**の存在です。1960年に諏訪精工舎(現在のセイコーエプソン)から「国産最高級時計」として登場したグランドセイコーに対し、翌1961年に第二精工舎(現在のセイコーインスツル、亀戸工場)が対抗馬として開発したのがキングセイコーでした。これは、セイコー社内の2つの生産拠点による健全な競争であり、この切磋琢磨が日本の機械式時計の技術水準を飛躍的に高める原動力となりました。グランドセイコーが「最高の精度」を追い求めたのに対し、キングセイコーは「上質な時計を手が届く範囲で提供する」というコンセプトを掲げました。価格は当時の大卒初任給とほぼ同程度であり、当時の一般の人々にとって「いつかは手に入れたい、憧れの高級品」という、手の届きそうな贅沢を象徴する存在だったのです。
独自の美意識:デザインの魅力

初代キングセイコーの大きな魅力は、その**「凛々しい」**と表現される独特なデザインにあります。
フラットな造形と力強いディテール
ケース径は現代と比べるとやや小ぶりな直径約35mmで、ケースサイドから文字盤にかけての造形は、極めてフラットで直線的です。これは、同時期のグランドセイコーに見られる柔らかな曲面とは対照的で、亀戸の「粋」を体現したようなシャープでモダンな印象を与えます。
ライターカットのインデックス
特に印象的なのは、文字盤のインデックスです。極太で立体的なインデックスには、当時のライターやカメラのノブに使われていたような**「ライターカット」**と呼ばれる多面カットが施されています。この仕上げが光を複雑に反射し、控えめな中にも力強い存在感を放っています。
盾のメダリオン
裏蓋には、キングセイコーの象徴である**「盾」のメダリオン**が刻印されています。金色の盾は、まさに「王の時計」の威厳と高級感を象徴しており、所有者の誇りをくすぐるディテールとなっています。
実用性と高精度を両立した技術

初代キングセイコーは、デザインだけでなく、その技術水準においても同時代の国産時計のトップランナーでした。ベースとなったのは、当時の第二精工舎の主力機「クロノス」のムーブメントCal.54Aの改良型で、**手巻き・25石・ロービート(18,000振動/時)**の設計です。
グランドセイコーに比べて秒針規制(ハック機能)がないなどのコスト合理化は図られていますが、精度を追求するための技術は随所に盛り込まれていました。
セルフグリーシングゼンマイ
長期間安定したトルクを供給するために開発された特殊なゼンマイ。
穴石の使用
香箱車の軸受けに穴石を用いるなど、摩耗を減らし、安定した出力を保つ工夫。
緩急針微動調整装置
より精密な精度調整を可能にする機構。
これらの技術は、キングセイコーが単なる「普及版の高級時計」ではなく、グランドセイコーと並び称される「高精度な実用時計」であったことを証明しています。
時代を映す名作として

キングセイコー ファーストモデルは、日本が自信を取り戻し、世界にその技術力を見せつけ始めた時代の産物です。それは、働く人々が豊かさを享受し始め、**「良いものを長く使う」**という価値観が浸透した時代の証人でもあります。現代の視点で見ると、そのシンプルで堅牢なデザインは、半世紀以上の時を経ても全く古びていません。むしろ、現代のミニマリズムの流行とも共鳴し、その普遍的な魅力は再評価されています。裏蓋に残る美しい盾のメダリオン、手巻きならではのゼンマイを巻き上げる時間など、この時計は単に時を刻むだけでなく、高度経済成長という熱い時代の記憶と、当時の日本のクラフトマンシップを現代に伝えてくれる稀有な名作なのです。
LUCIR-K

静岡の中心地にあるLUCIR-K(ルシルケイ)はブランド時計やヴィンテージ時計を扱うお店です。ロレックスやオメガ、カルティエ、グランドセイコーなど数多くのブランドとモデルを取り揃えています。
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